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地域連携活動発表会

<地域と連携した卒前・卒後医学教育の新たな取り組み>
発表者:医学部附属病院・准教授 橋本 正良
医学部附属病院・特命准教授 石田 岳史

「地域と連携した卒前・卒後医学教育の新たな取り組み」とのタイトルで、前半は橋本が、後半は石田が報告を担当した。

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これまで、医学の卒前・卒後教育の中で、地域医療・へき地医療に関してほとんど教えてこなかった。しかし平成18年度から神戸大学では、へき地医療機関を医育機関として活用する取り組みを行っている。さらに平成19年度からへき地医療プログラムということで、実際へき地(但馬地方)へ研修医を1ヵ月派遣し様々な取組を開始した。

但馬地方では、公立豊岡病院周辺の50床クラスの病院で研修を行っている。社協のデイサービスや、グループホームと老人ホームの見学など、医療と福祉の連携の現場を体験できるようにした。またヘルスプロモーションによる一次予防やICT(Information and Communication Technology)による医療支援、訪問診療、診療所の実習を取り入れている。公立豊岡病院へは遠隔会議システムを用いて神戸大学のカンファレンスをそのまま公立豊岡病院へ飛ばしたり、CT画像を専用回線で伝送し神戸大学の放射線専門医に読影してもらうという遠隔画像診断を行ったりしている。

研修医のアンケートをみてみると、「充実した研修が出来た」「地域の病院では患者背景を考慮した医療の重要性が理解できた」さらに「ヘルスプロモーションを通じて一般市民への医学知識を伝える難しさが分かった」などの感想があった。

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現在、患者や社会のニーズに合った医師の養成が求められている。医師や患者との間では、医療に対する考え方が異なっている。医師は病気には最先端の治療で「治す」を主眼とし、患者は病気の完治より、ケアを求めている事が多い。従来の医学教育では、ありふれた疾患を診る機会が少なかった。当然全人的診療や臨床的思考の訓練や外来診療の訓練がなされてこなかった。医療現場でも、一般診療を専門とする診療科ができたのも近年のことである。その問題点を克服するため、今まで余り顧みられなかった「医学教育の卒後」、あるいは全人的医療を念頭においた「卒前・卒後教育」に取り組むようになった。

平成17年度からは、文部科学省の「地域医療等社会的ニーズに対応した医療人教育支援プログラム」に採択された。

卒前教育として、神戸大学では1年次から、early exposureといって、実際に外来受診の患者とともに、受付から受診、検査、会計までの行動を共にする実習を行っている。臨床実習では、「問診」より幅広い概念である「医療面接」を学ぶため、SP: stimulated or standardized patient(患者役を演じることのできるスペシャリスト)に実習に参加をお願いしている。その「医療面接」の様子を別の学生が評価し、それをフィードバックし、学習に役立てるシステムをとっている。学外診療所実習では、診療現場の医師のところで、学生に実際の診療をみて貰っている。

卒後教育としては、全人医療、チーム医療を実践する場として総合病床を作り、教育環境の整備を行った。後期研修では、Clinician Educator(臨床現場で診療しながら教えることのできる医師)の養成や、全人医療を専門とする欧米の医師による教育にも取り組んでいる。

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結論として、へき地医療研修の目玉にヘルスプロモーションを位置づけると研修医の満足度・達成感は向上するということが明らかになった。そして、講演内容やへき地医療研修の仕上げ段階では、遠隔で教育しなければならない場面が多々ある。そこに遠隔カンファレンスの有用性を見いだせた。ICTを用いた電子会議、DICOM画像を使った遠隔画像診断をへき地で経験させることは、へき地医療のイメージ変革及び医療の質の担保に役立つと考えている。

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